昨日の一冊は、百物語の最新刊。

宮部みゆき『青瓜不動~三島屋変調百物語 九之続~』(角川書店)

卯の花

人は誰でも、
一生に一つの物語を綴りながら生きている。
時にはそれを語りたくなる。
幸福の儚(はかな)さを、
情愛の美しさを、
失われゆく魂の尊さを、
全てを焼き尽くしてもなお、
燻(くすぶ)って残る憎悪のしぶとさを、
許し合う心の豊かさを。
(「序」より)

昔からの謂(い)われにあるとおり、
一日に畳の一目ずつ陽が長くなってゆく。
(第一話「青瓜不動」より)

庵主となったお夏は、
女たちが互いの身の上話を語り合うことを禁じたりはしなかったが、
語って思い出しては泣くくらいなら、
食って寝て元気になって働く方がいいと勧めた。
(第一話「青瓜不動」より)

悪がどれほど幅をきかそうとも、
善は滅びなない。
だんだん人形はその証だ。
(中略)
書物は、
この世のあるべき証を載せる船みたいなものですよ。
(第二話「だんだん人形」より)

ちょうどおっぱいが終わって眠ったばかりだという小梅も、
赤子独特のむし笑い(眠ったままの微笑)を披露して、
富次郎を元気づけた。
(第二話「だんだん人形」より)

誰かが捜しにくる子は、迷子じゃ。
いくつになっても、
何年たっても、
誰も捜しにきてくれん子は、捨て子じゃ。
(第四話「針雨の里」より)