昨日の一冊は、
国木田独歩『武蔵野』(岩波文庫)

卯の花

我れと他と何の相違があるか、
皆なこれこの生を天の一方他の一角に享(う)けて、
悠々たる行路を辿り、
相携えて無窮の天に帰る者ではないか、
というような感が心の底から起って来て、
我知らず涙が頬をつたうことがある。
その時は、
実に我も彼もなければ他(ひと)もない。
ただ誰れも彼れも懐かしくって、
忍ばれて来る。
(「忘れえぬ人々」)

平たくいえば、
この世で出会った人は、
みんなどこか遠くからやってきて、
みんなおなじ遠くへ帰っていく。
その間だけ同じ時を過ごす人生の仲間ではないか、
ということかなと思います。

昔、
授業でここのところを教えていて、
教えながら目の前の高校生たちが、
ものすごく愛(いと)おしくなって、
涙がでそうになったことがありました。