檸檬切るトパーズ色のしぶきの香  松本由美子

あるじなき家に実れる檸檬かな  市橋千翔け
(工藤力男『季語の博物誌』)

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとった一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした(後略)
(高村光太郎「レモン哀歌」)

八月に亡くなったあの人の庭にも、
大きなレモンの木があって、
毎年たくさんの実がなった。