桜木紫乃『ヒロイン』(毎日新聞出版)を読み終えました。

卯の花

ふと、この老医師になら訊ねてもいいような気がしたのだった。
「産んでもいいですか」
彼女は深く息を吸って、「もちろん」と答えた。
「産んでいけない命なんてありませんよ」
(中略)
「七か月まで抱えていらしたからには産みたかったのでしょう?」
啓美はひとつ頷いた。
「赤ちゃんに、会ってみたかったんです」
さらに慈悲深いまなざしを浮かべた彼女は、
「それでいいのよ」と説いた。
(「第六章 産声」) 

産むことを喜ばない妊婦をたくさん見て来た彼女は、
この出産を最後の仕事にしようと思います。

そして、
しみじみとして言います。
喜んでくれる妊婦さんに会えて、
今日はいい日だわねえ。