伊予原 新『宙(そら)わたる教室』(文藝春秋)

卯の花

おそらく、
今年詠んだ本の中で最も感銘を受けた気がします。

「オポチュニティの轍(わだち)」が出てきます。
火星で探索を14年間続けた小さな探査車が、
火星に残した二筋の轍。

この子が一人来た道を振り返って撮ったんです。

それはこの子が異星の原野を、
たった一人で何年も旅してきた証。
生命を感じさせるものが何一つない絶対的な孤独の中を、
懸命に生き延びてきた足跡。

この子は、
自分の後ろに延々と続く轍を見て、
ただ孤独を感じたわけではないのだ。
きっと、もう少しだけ前へ進もうと思ったに違いない。
地球にいる仲間たちの存在を、
背中のアンテナに感じながら。