《三日だけの日記》
来月、
久しぶりの講演があります。
久しぶりなので資料の整理整頓をしました。

資料の間から、
黄ばんだ日記が出てきました。

黄ばんだ日記

娘たちが、
まだ小学生だったころ、
大阪に旅行したことがありました。
その時の日記です。

 


 8/15
  大阪が
  いい旅行だったので
  日記をつける気になった

  加堂のおばさん
  ヨーコさん
  カズエさん

  環状線の初老の婦人
    天王寺で降りようと思っていたけど
    あなたたちのために
    鶴橋で降りて
    そっちの用事を先にすませますので
    お子さんを座らせてあげてください

  人のぬくもりが
  心に染みて
  心が揺れた

この旅行中に、
下の娘が体調を崩しました。
この見知らぬ女性だけでなく、
加堂のおばさんにも、
ヨーコさん一家にも、
行き届いた心遣いをいただきました。
日記を読み返して、
そのことが、
まざまざと蘇ります。


 8/16
  万寿寺に墓参り
  境内の掲示板
    限りなき祖先に受け
    限りなき子孫に伝える
    我が生命かな

  
  永山則夫の葬儀が
  14日にあったそうだ
  遺作の小説は
  「華」だったそうだ


 8/17
  大阪・紀伊国屋で買った詩集を読む
  『集成 昭和の詩』
  髙田敏子の
  いい詩があった
    
       小さな靴
    小さな靴が玄関においてある
    満二歳になる英子の靴だ
    忘れて行ったまま
    二ヶ月ほどが過ぎていて
    英子の足にはもう合わない
    子供はそうして次々に
    新しい靴にはきかえてゆく
    
    おとなの疲れた靴ばかりの並ぶ玄関に
    小さな靴は おいてある
    花を飾るより ずっと明るい


日記は、
この三日だけで、
あとの数十ページは白紙のままです。

8/18から学校が始まりましたので、
時間の余裕も、
心の余裕も無くなってしまったのでしょう。


でも、
このときの数日、
とってもいい日々だったのだろと、
読み返して、
しみじみと思います。