《お待ちしていました》
先日の講演で。
「待ってます」の話をしたので、
あちこち探して、
やっと見つけました。
「お待ちしていました」を・・・。

昨日、
私の部屋の前に掛けました。
「お待ちしていました」を・・・。

お待ちしていました

  待つ喜び
  待たれる幸せ

 

「幸せ」と書いたら、
ふっと、
吉野弘を思い出しました。

      虹の足
              吉野 弘
  雨があがって
  雲間から
  乾麺(かんめん)みたいに真直(まっすぐ)な
  陽射しがたくさん地上に刺さり
  行手(ゆくて)に榛名山(はるなさん)が見えたころ
  山路を登るバスの中で見たのだ、虹の足を。
  眼下にひろがる田圃(たんぼ)の上に
  虹がそっと足を下ろしたのを!
  野面(のづら)にすらりと足を置いて  
  虹のアーチが軽やかに
  すっくと空に立ったのを!
  その虹の足の底に
  小さな村といくつかの家が
  すっぽり抱(が)かれて染められていたのだ。
  それなのに
  家から飛び出して虹に足にさわろうとする人影は見えない。
  ・・・おーい、君の家が虹の中にあるぞォ
  乗客たちは頬を火照(ほて)らせ
  野面に立った虹に見とれた。
  多分、あれはバスの中の僕らには見えて
  村の人々には見えないのだ。
  そんなこともあるだろう
  他人には見えて
  自分には見えない幸福の中で
  格別お驚きもせず
  幸福に生きていることが・・・。
      (吉野弘『吉野弘詩集』思潮社)


待つ喜びは、
自分に見えても、
待たれる幸せは、
自分には見えないことも多いのかもしれません。

吉野弘詩集