《昨日の一冊》
読みさして、
長いこと放っておいた一冊、
山本甲士『わらの人』(文春文庫)

昨日、
読み終えました。

昨日の一冊


傍線を引いた箇所から。

 

  自分の内面を、
  性格をすっかり変えてしまうというのは、
  少々無茶なことかもしれない。
  でも、
  演技だということで自己暗示をかければ、
  いつもの自分とは別の言葉を口にしたり、
  別の行動を取ったりすることが、
  できなくはないのではないか。

性格を変えるのは、
なかなかに難しい。
多くの人は、
そう思っている。
私もそうです。
でも、
演技ならできそうだ。
演技するだけなら・・・。
これは演技だと、
そう思ってその場を生きることは、
案外たやすくできそうな気がします。


  「米原」
  西坂は口に運びかけたグラスを置いた。
    人間、一人じゃあ生きては行けねえよな。
    お前がここまで成長できたのも、
    世間様の、
    いろんな人たちのお陰じゃねえか。
  「はあ」
    だったらよ、たまにはその世間様に何か一つや二つ、
    お返しができたら悪くねえととは思わねえか。
  「・・・おっしゃるとおりです」
    お前に、
    今すぐ何かやれとは言わねえけどよ。
    頭の隅っこにでも留めといて、
    いつかお前はお前なりに、
    世間様へのお返しをしろや。


  まだ若いのだ、
  今から修行して、
  手に職をつければいい。
  おカネは最低限でもいい。
  おカネでは買えない誇りを手に入れられるのなら。
  そう、
  誇りだ、
  誇り。
  胸を張って、
  自分はこれだけは誰にも負けないという誇り。
  それがあれば、
  ちまちまとした悪事に加担させられたりしない。
  自分らしい人生を送れるではないか。
  もう迷いなんてない。
  今からやるべきことを探すのだ。


  いいじゃん、
  思いつきでも。
  考えに考えてやったことでも続かないことはあるし、
  逆に思いつきで始めたことでもずっと続くことだってあるでしょ。
  大切なのは後のことよ。