《絶望的孤立》
やっと、
やっと、
読み終えました。

角田光代『坂の途中の家』(朝日新聞出版)

絶望的孤立


終わりに近い部分から、
一か所だけ引用します。

 

  私はやはり被告人に同情します。
  両親、
  夫、
  義母、
  友だち、
  医師や保健師、
  ほかの母親たち。
  ひとつボタンを掛け違えたばかりに、
  みんな、
  声も届かないほど遠い人たちに思えて、
  助けを呼ぶ声がどうしても出なかった。
  それはけっして見栄でもプライドでもなかったと思います。
  自分ひとりが、
  どうしようもなくだめでおろかな母親に思えたんじゃないでしょうか。
  そのことをもうだれにも指摘されたくなかったんじゃないでしょうか。
  そして、
  助けを呼びたいのに呼べないことに、
  身近な人はだれひとり気づかなかった。
  そのことは、
  私は同じ母親として心から気の毒に思います。
                  (「評議」より)

一人の平凡な母親の、
誰にも分かってもらえない辛さ、
誰からも理解されない悲しみが、
その深い深い孤立の思いが、
痛いほど心に突き刺さりました。

いわば、
絶望的な孤立に、
胸を締め付けられました。

誰にも強い悪意があるわけではないのに、
むしろ他人から見たら「やさしさ」に見える言動によって、
どんどん絶望の淵に追いつめられる、
そんな若い母親の育児の日々が、
目に浮かぶように描かれています。


角田光代、
すごいなあと思います。