《おっくう》
昔、
娘が通う高校に、
「おっくう」と呼ばれる先生がいた。

なんでも、
ことあるごとに、
「億劫、億劫」と言うのだそうだ。

どういう文脈で、
その言葉が発せられるのかわからないけど、
とにかく言うのだそうだ。
「億劫、億劫」と。


以前、
講演に行った小学校で、
「おっくう」に出会ったら、
「おっくう」は小学生の母になっていた。

久しぶりに言葉を交わしたけれど、
「おっくう」は、
「億劫」とは言わなかった。

それどころか、
私は、
彼女自身の口から、
「億劫」という語を耳にしたことは一度もない。

でも、
娘は今でも、
彼女のことを「おっくう」と呼ぶ。


ことあるごとに、
「億劫、億劫」という彼女のことを、
ことあるごとに、
「おっくうがねえ」
「おっくうはねえ」
と噂したものだ。

「おっくう」はどうしているのだろう?

私も時々、
「おっくう」のことを思いやる。

こんな朝から億劫な日には、
わけもなく「おっくう」を思い出す。

何をするのも億劫な今日のような日、
「おっくう」はどうしているんだろう?・・・と、
「おっくう」のことを思う。

「なんか億劫だなあ~」と、
ついつい「億劫」を口にする時、
ふわりと「おっくう」のことを思い出す。 

いまごろ、
「おっくう」はどうしているんだろう?