【蜘蛛(くも)】2020・10・21
2020年10月21日
《蜘蛛》
蜘蛛が苦手という人もありますが、
私は嫌いではありません。
小学校の低学年のころ、
担任の先生が休まれたことがありました。
校長先生が教室においでになって、
お話をしてくださいました。
それが蜘蛛の話でした。
蜘蛛は巣をかけるとき、
枝に糸を長く垂らし、
その先っぽにぶらさがって、
風が吹くのを待っています。
頃合いの風が吹くと、
その風に乗って、
少し離れた枝にひっついて、
そこから蜘蛛の巣作りが始まります。
風は弱かったり強すぎたり、
方向が違っていたりして、
なかなか思うように事ははこびません。
蜘蛛はただじっと待つか、
風を捉えて何度も何度も挑戦します。
その無駄のような時間の後に、
「やったぞ」という瞬間が訪れます。
いったん別の枝に取り付いたら、
その糸をたどって行きつ戻りつできるので、
後は簡単です。
何度か往復して、
四角形の枠組みがができたら、
今度は外から中に向かって螺旋を描いて糸を貼ります。
最後にその中心に身を据えて、
ただひたすら獲物がかかるのを待ちます。
蜘蛛の営みの最初と最後は、
ただじっと待つということだけです。
校長先生はどういうことが言いたくて、
この話をされたか忘れましたが、
私は聞いていて、
人間は忍耐や努力が必要だというような教訓よりも、
いいようのない心の息切れを感じてしまいました。
決して嫌な思い出ではありません。
どちらかというと奥深く掛け替えのない記憶です。
今年は蜘蛛を見かけることの多い夏から秋です。
蜘蛛を見るたびに、
決まってこのことを思い出します。