《蜘蛛》

蜘蛛が苦手という人もありますが、

私は嫌いではありません。

 

小学校の低学年のころ、

担任の先生が休まれたことがありました。

校長先生が教室においでになって、

お話をしてくださいました。

それが蜘蛛の話でした。

 

蜘蛛は巣をかけるとき、

枝に糸を長く垂らし、

その先っぽにぶらさがって、

風が吹くのを待っています。

頃合いの風が吹くと、

その風に乗って、

少し離れた枝にひっついて、

そこから蜘蛛の巣作りが始まります。

 

風は弱かったり強すぎたり、

方向が違っていたりして、

なかなか思うように事ははこびません。

蜘蛛はただじっと待つか、

風を捉えて何度も何度も挑戦します。

その無駄のような時間の後に、

「やったぞ」という瞬間が訪れます。

 

いったん別の枝に取り付いたら、

その糸をたどって行きつ戻りつできるので、

後は簡単です。

 

何度か往復して、

四角形の枠組みがができたら、

今度は外から中に向かって螺旋を描いて糸を貼ります。

最後にその中心に身を据えて、

ただひたすら獲物がかかるのを待ちます。

 

蜘蛛の営みの最初と最後は、

ただじっと待つということだけです。

 

校長先生はどういうことが言いたくて、

この話をされたか忘れましたが、

私は聞いていて、

人間は忍耐や努力が必要だというような教訓よりも、

いいようのない心の息切れを感じてしまいました。

 

決して嫌な思い出ではありません。

どちらかというと奥深く掛け替えのない記憶です。

 

今年は蜘蛛を見かけることの多い夏から秋です。

蜘蛛を見るたびに、

決まってこのことを思い出します。

蜘蛛1

蜘蛛2