【本当の仕事】20202・10・28
2020年10月28日
《本当の仕事》
西條奈加『鱗や繁盛記』(新潮文庫)の巻末、
国文学者の島内景二さんが、
「歓喜の年鑑へ」と題した文章を載せています。
その中に、こんな一節があります。
今、念頭にあるのは、
小林秀雄が対談の席上で、
三島由紀夫に対して発した言葉である。
意欲作『金閣寺』を完成させて意気揚々とし、
「批評の神様」である小林秀雄から、
どんな言葉がかけられるか期待している三島に向かって、
小林はこう言った。
・・・で、まあ、ぼくが感じたことは、
あれは小説っていうより抒情詩だな。
つまり、
小説にしようと思うと、
焼いてからのことを書かなきゃ、小説にならない。
(対談集『源泉の感情』)
三島の『金閣寺』は、
主人公が金閣寺に火を付けた場面で終わっている。
だが、
そこから始めるのが小説だと、
小林は言ってのけた。
確かにそういうことはあるだろうな・・・と、
そう思いながら、
この文章を読みました。
小説や芸術活動に留まらず、
日々の営み、
たとえば、
育児や教育、
商売や農作業、
何であれ、
当の本人が、
やり遂げたと思ったそこから、
本当の仕事が始まるのだろうな・・・と思いました。
当の本人が自分の世界で「やり遂げた」と思うのは、
それは情緒に過ぎなくて、
本当の仕事はそこからなのだと痛切に思いました。