島根県生まれの人の時代小説、
昨夜、読み終えました。
志川節子『ご縁の糸~芽吹長屋仕合せ帖~』(新潮文庫)

志川

いくつか引用して、
私の「仕合せ帖」を作りました。

  運針はもちろんのこと、
  針を持つときの姿勢にやたらとうるさい師匠で、
  少しでも構えがゆがむと物差しで肩を打ち据えられたものだ。

  正しい姿勢を保てば長く針を使っても、
  疲れにくいということにも、
  いまさらながら気づかされた。

  他人様(ひとさま)の感謝がこもった金子(きんす)は、
  なんと尊いものだろう。

  きょうだいそれぞれに同じだけ母親の慈愛を注いでも、
  子供はいずれもみんな違って、
  みんなかけがえのない一人なのだ。
  海太が手許(てもと)にいない寂しさは、
  海太でなければ埋められない。

  その、どこか悟りきったような風情が、
  自身のありのままを受け入れたゆえに滲(にじ)み出てくるものだとしたら、
  この十日ばかりのあいだに、
  権之助はいかほどの感情と折り合いをつけねばならなかっただろう。 

  辛抱の積み重ねが、
  後々(のちのち)ものをいうんだから。

  おえんは恋する娘のまぶしさをあてつけられた気持ちになった。

仕合せとは、
こうした日常の積み重ねの先にあるのだろうと思います。