小川糸『とわの庭』(新潮社)
最後は「母のものがたり」とします。
   だいじょうぶ、泉はけっしてかれないから。
   あんしんして、わたしのそばで、ぐっすりおやすみ。
  思い出した。
  紙に書いてある母の文字は読めないけれど、
  母の声は、この胸に生きている。
  わたしは、この詩を口にしていた時の母の心情を、ようやく理解した。
  母は、わたしを愛していたのだ。
  わたしが母を愛したように、
  母もわたしを愛してくれていた。
  途中からそれが横道にそれただけで、
  最初は母も、わたしを純粋に愛していた。

比類なき残酷なものがたりですが、
この上なく救いのものがたりです。

とわ