【とっておきの隠し味】2020・12・17
2020年12月17日
久しぶりに「おけら長屋」を読みました。
7、8巻までは真面目に真面目に読んでいましたが、
いつのころからかご無沙汰でした。
いつの間にか15巻になっていました。
畠山健二『本所おけら長屋』(PHP文芸文庫)の最新刊。
お栄が煮た大根を口にした涼介が、
美味い。
この前の芋の煮っ転がしといい、この大根といい、
身体だけでなく心まで温かくなってくるような気がします。
と言ったとき、松吉が言います。
なぜだかわかりますかい。
おけい婆さんも、
この店のお栄ちゃんも、
作ってる人の心が温(あった)けえからですよ。
それに、
塩でも砂糖でも出汁(だし)でもねえ、
とっておきの隠し味があるんでね。
涙ですよ。
長屋暮らしの貧乏人なんてえのは、
みんな心の中に悲しみや苦しみを抱えて生きてるんでさあ。
だから、
鍋の中に涙が一粒、流れ落ちるんで。
心根(こころね)の優しい人には、
その涙の味がわかるんですよ。
時代小説には、
こういう場面、
こういう会話、
こういう人情が、
よくあるものです。
そこが、
時代小説のいいところです。
それが、
本屋さんでついつい手に取って、
ペラペラとめくっただけで買ってしまう理由でもあります。