大晦日の夜から元日の夜まで、
あんまりテレビも見ずに、
一日中どこにも行かず、
横になったり座ったり、
文庫本と一緒に過ごしました。
年末に、
主に時代小説をまとめて買っておいてよかった。

まずは、
中島久枝『一膳めし屋 丸九(まつきゅう)』(ハルキ文庫)
丸九

その中から、
「本物」にまつわる個所を紹介します。
  このふたりも子供の頃から絵が好きで、得意で、
  国元では天才と噂されていたのかもしれない。
  ところが画塾に来てみたら、
  本物の天才、鬼才がいた。
  己の限界を思い知らされた。
  切ないことだが、
  それぞれ生まれ持った器(うつわ」というものがあるらしい。

  つまり、
  仙吉は子供の頃から本物を見て育ったのだ。
  画だけではない、
  書画骨董に食べるもの、着るものまで、
  さまざな美しいもの、よいもの、おいしいものに触れてきた。
  仙吉の才は小手先のものではない。
  もっと豊かな、広がりを持ったものに違いない。
  お高はまぶしいような思いで仙吉をながめた。 

自分自身の来し方を振り返って、
「本物」という語が妙に心にしみました。