手許にある「古語辞典」(旺文社)によると、
  ものもひ【物思ひ】→ものおもひ。
  ものおもひ【物思ひ】いろいろ思い悩むこと。うれい思うこと。心配すること。
「ものもひ」の用例として、この歌が載っています。
  夕さればものもひまさる見し人の言問ふ姿面影にして (万葉集・巻四・605)
笠 女郎(かさのいらつめ)が大伴家持(おおとものやかもち)に贈った歌だそうです。
 夕暮れ時になると、物思いが増してきます。
 かつてお会いした人が、
 私にやさしい言葉をかけてくださったあの姿が目に浮かんできて。
というような意味でしょうか?

私のものもひ。
 入院している彼のこと。
 自宅で闘病なさっているあの方のこと。
 人生の大事を生きている娘たちのこと。
 日々ものもひしている妻のこと。
 我が子の今と行く末を案じるあの人この人のこと。
 ままならぬ世情のこと。
 自分の病気のこと。
 自分が老いていくこと。
 自らが死ぬるということ。
 そして明後日の講演のこと。

ものもひは尽きません。

今朝、読み終えた時代小説。
篠 綾子『菊のきせ綿~江戸菓子舗照月堂~』(ハルキ文庫)に、
和歌が引用されていました。
  あぢきなし嘆きなつめそ憂きことに あひくる身をば捨てぬものから

「了然尼」が解釈しています。
  仕方のないことだから、あまり思いつめて嘆かないで。
  つらい目に遭ったその身を捨てもせずにいながら。
  ・・・というような意味でしょうか。
「なつめ」は思います。
  つまり、
  了然尼は思い通りにいかなくても
  嘆くなと言いたいのだ。
旬1