【ことばつまみ】2021・2・7
2021年02月07日
昨夜、
原田マハ『ギフト』(ポプラ文庫)を読んでいて、
この人は上手にことばをつまんで来るなあと思いました。
何を着ていくか内緒にしていた私たちは、
待ち合わせの駅に現れたお互いを見て歓声をあげた。
薄いピンク、チェリーピンク、ラベンダー、バイオレット。
見事なグラデーションのワンピースが揃(そろ)っていた。
「予定調和、ってやつ?」と、美帆。
「順番に並んで行こうよ」と、めぐみ。
「薄い色から順番に」と、亜衣。
「やだ、幼稚園児みたいじゃん」と私。
(「小さな花束」より)
二日まえ、真由が電話してきた。
なぐさめる言葉もないほど泣きじゃくりながら。
長年つき合っていた彼とケンカしたと言う。
せっかく結婚へのカウントダウンが始まっていたのに、
もうだめかも、などと嘆いていた。
(中略)
駅のロータリーで車を停めて、
クラクションをひとつ、鳴らした。
サングラスをゆっくり外して、
真由が窓の外に目を凝らす。
ガチャリと助手席のドアを開けたのは、
彼だった。
「お待たせ。雨、やんだわよ」
(「ドライブ・アンド・キス」より)
思い切って、自分へのごほうび。
そんな気分で、
まえから目をつけていた赤いチェックのウールのコートを買った。
(中略)
クリスマスまえ、
コートに初めて袖を通してみた。
うん、いい感じ。なかなか、似合う。
(中略)
翌日、あの駅から電話が入った。
「紙袋の持ち主のかたが、どうしてもお礼を言いたいとこのことで」
(中略)
「ほら、このお姉さんが、健太のプレゼントを運んでくれたんだよ。よかったね」
ああ、きのうの紙袋は、この子へのプレゼントだったんだ。
(中略)
男の子はちょっと恥ずかしそうにつぶやいた。
「ありがとう、サンタさん」
(「電車に乗って」より)
「予定調和、ってやつ」
「雨、やんだわよ」
「ありがとう、サンタさん」
絶妙の言葉つまみです。