昨夜、
原田マハ『ギフト』(ポプラ文庫)を読んでいて、
この人は上手にことばをつまんで来るなあと思いました。

  何を着ていくか内緒にしていた私たちは、
  待ち合わせの駅に現れたお互いを見て歓声をあげた。
  薄いピンク、チェリーピンク、ラベンダー、バイオレット。
  見事なグラデーションのワンピースが揃(そろ)っていた。
  「予定調和、ってやつ?」と、美帆。
  「順番に並んで行こうよ」と、めぐみ。
  「薄い色から順番に」と、亜衣。
  「やだ、幼稚園児みたいじゃん」と私。
             (「小さな花束」より)

  二日まえ、真由が電話してきた。
  なぐさめる言葉もないほど泣きじゃくりながら。
  長年つき合っていた彼とケンカしたと言う。
  せっかく結婚へのカウントダウンが始まっていたのに、
  もうだめかも、などと嘆いていた。
      (中略)
  駅のロータリーで車を停めて、
  クラクションをひとつ、鳴らした。
  サングラスをゆっくり外して、
  真由が窓の外に目を凝らす。
  ガチャリと助手席のドアを開けたのは、
  彼だった。
  「お待たせ。雨、やんだわよ」
        (「ドライブ・アンド・キス」より)

  思い切って、自分へのごほうび。
  そんな気分で、
  まえから目をつけていた赤いチェックのウールのコートを買った。
     (中略)
  クリスマスまえ、
  コートに初めて袖を通してみた。
  うん、いい感じ。なかなか、似合う。
     (中略)
  翌日、あの駅から電話が入った。
  「紙袋の持ち主のかたが、どうしてもお礼を言いたいとこのことで」
       (中略)
  「ほら、このお姉さんが、健太のプレゼントを運んでくれたんだよ。よかったね」
  ああ、きのうの紙袋は、この子へのプレゼントだったんだ。
       (中略)
  男の子はちょっと恥ずかしそうにつぶやいた。
  「ありがとう、サンタさん」
        (「電車に乗って」より)
旬1

「予定調和、ってやつ」
「雨、やんだわよ」
「ありがとう、サンタさん」
絶妙の言葉つまみです。