本箱を整理していたら、
90歳近い方からいただいた文庫本が出てきました。
書店のカバーがかけてあり、
サインペンで私宛のお便りが書いてありました。
この本のお薦めの言葉でした。
  少々小難しいページもあるが、
  全体的にはオカシイかオモシロイかなので、
  読むことをおすすめします。

お薦めの文庫本は、
藤原正彦『この国のけじめ』(文春文庫)でした。
旬1
藤原正彦さんにして、
こういう思いもあるのか?
そう思った個所を紹介します。
  受験生をかかえた家庭は、
  一月、二月は息のつまるような緊張に包まれる。
  私なども外では偉そうなことを言っているが、
  家に受験生がいるとあたふたする。

ご長男が「有名私立中学校」を不合格になった日のことを書いておいでです。
  女房はその後何ヵ月も、
  この夜のことを思いだしては、
  「可哀そう」と涙ぐんでいた。
  今も、不憫だったと辛そうにいう。
    (中略)
  大学院生になった当人は、
  中学受験失敗のことなど何とも思っていない。
  遠い昔の一エピソードに過ぎないようだ。
  子はたくましい。

もう一ヵ所、
藤原正彦さんをして、
「死」はこういう思いにさせるのか?
そう思った個所も紹介します。
  母は私の子供のころから、
    死ぬといいよー、
    いやなこと辛いことがなーんにもなくなるんだから。
  といつも笑みを浮かべながら言っていた。
  母の言葉のせいか、
  父からの武士道精神のせいか、
  私が死を怖がることは子供のころから一度もなかった。
  喧嘩のときも、
  死んでもよいといつも思っていたから敵なしだった。
やはりこの人は、
「人生の友」ではないなあと思った次第です。

  ところが三十六歳で父を失ってから、
  死が急激に接近し、
  怖れを抱くようになった。
  「いつかは母も死んでしまう」
  と考えるたびに落ちこみ、
  「いつか自分も」と考えると、
  ほとんど気が遠くなるようだった。
  以後十数年ほど、
  夜中にその恐怖に圧倒され、
  ふとんの中で悶えることもしばしばあった。

このくだりを読んだとき、
藤原正彦という人が、
失礼にも「人生の友」のように思われました。