【お薦め】2021・5・9
2021年05月09日
本箱を整理していたら、
90歳近い方からいただいた文庫本が出てきました。
書店のカバーがかけてあり、
サインペンで私宛のお便りが書いてありました。
この本のお薦めの言葉でした。
少々小難しいページもあるが、
全体的にはオカシイかオモシロイかなので、
読むことをおすすめします。
お薦めの文庫本は、
藤原正彦『この国のけじめ』(文春文庫)でした。
藤原正彦さんにして、
こういう思いもあるのか?
そう思った個所を紹介します。
受験生をかかえた家庭は、
一月、二月は息のつまるような緊張に包まれる。
私なども外では偉そうなことを言っているが、
家に受験生がいるとあたふたする。
ご長男が「有名私立中学校」を不合格になった日のことを書いておいでです。
女房はその後何ヵ月も、
この夜のことを思いだしては、
「可哀そう」と涙ぐんでいた。
今も、不憫だったと辛そうにいう。
(中略)
大学院生になった当人は、
中学受験失敗のことなど何とも思っていない。
遠い昔の一エピソードに過ぎないようだ。
子はたくましい。
もう一ヵ所、
藤原正彦さんをして、
「死」はこういう思いにさせるのか?
そう思った個所も紹介します。
母は私の子供のころから、
死ぬといいよー、
いやなこと辛いことがなーんにもなくなるんだから。
といつも笑みを浮かべながら言っていた。
母の言葉のせいか、
父からの武士道精神のせいか、
私が死を怖がることは子供のころから一度もなかった。
喧嘩のときも、
死んでもよいといつも思っていたから敵なしだった。
やはりこの人は、
「人生の友」ではないなあと思った次第です。
ところが三十六歳で父を失ってから、
死が急激に接近し、
怖れを抱くようになった。
「いつかは母も死んでしまう」
と考えるたびに落ちこみ、
「いつか自分も」と考えると、
ほとんど気が遠くなるようだった。
以後十数年ほど、
夜中にその恐怖に圧倒され、
ふとんの中で悶えることもしばしばあった。
このくだりを読んだとき、
藤原正彦という人が、
失礼にも「人生の友」のように思われました。