【失われた春】2021・5・31
2021年05月31日
原田マハ『ゴッホのあしあと』(幻冬舎文庫)を、
やや時間がかかりましたが、
昨夜やっと読み終えました。
四月に『モネのあしあと』(幻冬舎文庫)が出たので、
急いだのですが、
いささか時間がかかりました。
原田マハさん、ゴッホに酔っているなあ~と思って、
ちょっと引いてしまい、
ゴッホに酔っている自分に酔っているのかなと思うと、
ちょっとついていけなくて、
文庫本一冊に何日もかかりました。
でも、心の底から思います。
酔えるものがあるのはいいなあと・・・。
酔えるものがある人生は幸せだろうなと・・・。
「あとがきにかえて」は、
「失われた春」と題されて、
去年の7月に書かれています。
2020年春。
世界中の多くの人たちにとって、
これほど忘れがたい春はこの先訪れないだろう。
新型コロナウイルスの感染が顕在化したのは、
今年一月、中国でのことだ。
当初は局地的な感冒のようなものだろうと、
ほとんどの人がさほど大ごととはとらえていなかった。
しかしこのウイルスはグローバル化の波に乗って、
日本へ。アジアへ、全ヨーロッパへ、全米へ、
最後にはほぼ全世界へと到達してしまった。
その後、
世界が体験したこの見えざる敵との闘いは、
2020年7月現在、
なお終わりが見えない。
「失われた春」どころか、
その後、
夏も秋も冬も失われてしまいました。
今となっては「失われた一年半」⁉
『ゴッホのあしあと』に、
忘れられない言葉がいくつかありました。
たゆたえども沈まず
十代の頃、
愛読していた本の中にこの言葉があったのだそうです。
美しい響きゆえか、
ずっと消えずに心のどこかにあった。
パリ市を象徴するエンブレムの紋章に、
“Fluctuat nec mergiur”
というラテン語が記されていて、
このラテン語を誰が訳したのか知りませんが、
大変美しい日本語で、
「たゆたえども沈まず」と訳されています。
こんな表現もされています。
革命があり、
災害があり、
戦争があっても、
パリはそのたびに、
たゆたいこそすれ、
沈むことはなかった。
不死鳥のようによみがえった。
こんな一文も心に残りました。
嵐のときは小舟になればいい。
たゆたいこそすれ、
決して沈まずに。
時間はかかりましたが、
読み終わってみたら、
豊かなる時間でした。