【艶(つや)】2021・9・15
2021年09月15日
昨日の読書は、
泉 ゆたか『幼なじみ~お江戸縁切り帖~』(集英社文庫)
巻末の解説で、
花村萬月がこんなことを書いています。
泉 ゆたかは、
私が選考委員をしていた〈小説現代長編新人賞〉を受賞してデビューしました。
(中略)
多少の否定的意見が、
他選考委員から出たのも事実です。
(中略)
でも、突っ張りました。
この人以外に受賞者はいない・・・と。
理由は、
艶(つや)。
この一文字に尽きます。
文章に、艶があったのです。
花村萬月がいう「高次元の艶」みたいな個所を、
本文から少し引用します。
明日のことを考えるとわくわくする。
きっと楽しいことばかりではなくて、
難儀なこともたくさんあるけれど。
けれども己の力を使い、
己にしかできない仕事を進めるのはやはり気持ちの良いことだ。
きっとこの男にも気掛かりな悩み事のひとつやふたつ、
必ずあるに違いない。
だが今このときは、
余計なことを考えず目の前の仕事に精一杯取り組もう。
そんな胸の内が聞こえてくるような姿に、
こちらも身の引き締まる思いがした。
そういや、
お夢は尼寺に入ったそうだね。
うまいところに収まったさ。
この世には、
己の足で立つことが苦手な奴は必ずいるからね。
学問や駆けっこが苦手だってのと同じで、
ちっともおかしなことじゃないさ。
そんな奴が生(なまみ)の人に寄りかかったら、
誰だって共倒れしちまう。
仏様の大きな背に縋(すが)るのがいちばんさ。