手に入る限りの宮本紀子を読みました。
これが最後の宮本紀子。
『狐の飴売り~栄之助と大道芸人長屋の人々~』(光文社)
旬1
「喜代」が難産の末に女の子を出産します。
「喜代」から手渡されて、
父親の「松次郎」がまず抱きます。
  「私にそっくりだよ」
  肯(うなず)く喜代も嬉し涙を流している。
  「お、おらも抱いていいかあ」
  辛抱できなくて、
  文太が黒い手を赤子に伸ばした。
  だめだめだめ、とみんながとめた。
  だが喜代だけが肯いた。
  「ええ、抱いてやってくださいな」
  ためらっている松次郎に、お前さま、と請(こ)うた。
  松次郎は肯いて赤子を文太へ渡した。
  そっとだよ、そうっと。
  みんながはらはら見守った。
  文太の腕の中で小さな赤子は眠る。
  「ち、小せえなぁ。柔らけえなぁ」
  文太は目を瞠(みは)り、
  酔ったように「ほうっ」と溜息を洩らした。
  「どうぞ、あなたのように優しいひとになりますように」
  喜代は祈るように言った。
  そしてみんなにも抱いてやってくれと頼んだ。
  「どうぞ、みんなのように強く、優しいひとになりますように」
  みんなは代わる代わる赤子を抱いた。
  泣いて、笑うひとの輪を赤子は巡る。

いちばんいいところです。

トワエモアが歌う「はじめに愛があった」の世界だなって思います。

映画『GIFTED』の光景をまたまた思い出しました。
若い父親が、
無事生まれたことを知らせに分娩室から出てきます。
ロビーで待っていた家族、親族、友人、知人、さらに無縁の少女までもが、
手を叩き、抱き合い、輪になり、泣きながら、笑いながら、飛び跳ねる、
・・・あの場面。