【泉ゆたか】2021・10・8
2021年10月08日
泉ゆたか『お江戸けもの医 毛玉堂』(講談社)を読み終えて、
今、手に入る彼の作品は全て読みました。
今でいう獣医の話ですが、
動物のことを書いているようで、
実は人間の物語でした。
ところどころ、
季節の風情がちりばめられて、
物語を彩(いろど)っています。
軒から覗(のぞ)くのは、
雲一つなく晴れ渡った青空だ。
風に揺れる庭木の緑も、
眩(まぶ)しいほど濃く見える。
浅草寺の境内を囲う木々で、
雀が朝の囀(さえず)りを交わしている。
白い空に浮かぶ五重塔の脇に、
そこだけ紅色の雲が見えた。
今にも雨が降り出しそうな鼠色の空は、
翌朝もどうにか持ちこたえていた。
天気は陰鬱だったが、
風は妙に生暖かい。
凍るような寒さが和らぐ兆しにほっとする一方で、
この分だと春の嵐が始まる気配が漂っていた。
暦の上ではようやく春になったが、
朝方はまだ寒さが残っている。
美津は鋏を握るかじかんだ手に、
はあっと息を吹きかけて温めた。