芭蕉の句、
 いざ行かむ雪見にころぶところまで
上の句が、
「いざ出(いで)む」となっている句もあり、
「いざさらば」となっている句もあるようです。

上の句はさておいて、
この句を借りて、
軽く読み進めることがよくあります。

  いざ読まん心がピクンと跳ねるまで

深く読み込んで、
心が疲れたり重くなったりしたときに、
本棚に常設の本から一冊を抜き出して、
さくさく読み進め、
心がピクンと跳ねたら、
今夜はおしまいにしよう。
・・・そんな軽装読書です。

昨夜は、
夏目漱石『硝子戸の中』(新潮文庫)

子どもころの漱石が、
「自分の所有でない金銭を多額に消費」したことがあって、
それがあまりにも高額だったので弁償のしようがなく、
罪の意識も手伝って、
夜も眠れないほど苦しんだことがあったようです。
  気の狭い私は寐(ね)ながら大変苦しみ出した。
  そうして仕舞いに大きな声を揚げて下にいる母を呼んだのである。
      (中略)
  母は私の声を聞き付けると、
  すぐ二階へ上って来てくれた。
  私は其処(そこ)に立って私を眺めている母に、
  私の苦しみを話して、
  どうかして下さいと頼んだ。
  母はその時、微笑しながら、
    心配しないでも好いよ。
    御母さんがいくらでも御金を出してあげるから。
  と云ってくれた。
  私は大変嬉しかった。
  それで安心してまたすやすや寐てしまった。

大文豪が書いたものとは思えないような文章だが、
夜の静寂(しじま)で、
ああ、いい光景だなって思いました。