菊花展で、
現(うつつ)の花を見ていたら、
幻(まぼろし)の花を思い出しました。

      幻の花
           石垣りん
  庭に
  今年の菊が咲いた。

  子供のとき、
  季節は目の前に
  ひとつしか展開しなかった。

  今は見える
  去年の菊。
  おととしの菊。
  十年前の菊。

  遠くから
  まぼろしの花たちがあらわれ
  今年の花を
  連れ去ろうとしているのが見える。
  ああこの菊も!

  そうして別れる
  私もまた何かの手にひかれて。
     (現代詩文庫46『石垣りん詩集』思潮社)