【さびしいとき】2021・12・3
2021年12月03日
「「デルフトの眺望」が表紙になった本、
原田マハ『常設展示室」の三つ目の話「マドンナ」に、
こんな一節があって、
深く静かに心にしみました。
「さっき吹いてたの、『ふるさと』だよね? なかなか、上手だったよ」
「そう」と母は、うれしそうな笑顔になった。
「もう一回、吹いてよ」
「やだ。いまは、そういう気分じゃないから」と、
もったいぶっている。
「なーんだ。じゃあ、どういうときがハーモニカ気分なの?」
母は、うふふ、と笑ってから、
目を細めてあおいの顔をみつめた。
「さびしいとき」
あおいは、どきりと胸を鳴らした。