「「デルフトの眺望」が表紙になった本、
原田マハ『常設展示室」の三つ目の話「マドンナ」に、
こんな一節があって、
深く静かに心にしみました。
  「さっき吹いてたの、『ふるさと』だよね? なかなか、上手だったよ」
  「そう」と母は、うれしそうな笑顔になった。
  「もう一回、吹いてよ」
  「やだ。いまは、そういう気分じゃないから」と、
   もったいぶっている。
  「なーんだ。じゃあ、どういうときがハーモニカ気分なの?」
  母は、うふふ、と笑ってから、
  目を細めてあおいの顔をみつめた。
  「さびしいとき」
  あおいは、どきりと胸を鳴らした。

  旬1