中学校のときの元日は登校日でした。
万葉集を二首、
体育館に集まって、
学校こぞって朗詠して、
みかんを二つもらって帰る。
元日の恒例行事でした。

今でも覚えている歌が二首あります。
  あらたしき年の始めの初春の 今日降る雪の重(し)け吉事(よごと)
  田子の浦ゆ うち出て見れば真白にぞ 不尽(ふじ)の高嶺に雪は降りける

「あらたしき」の歌は、
万葉集4516首の中の最後に位置する歌で、
作者は万葉集を編纂したと言われる大伴家持。
齋藤茂吉が『万葉秀歌』(岩波新書)の中に書いています。
家持の歌は万葉初期の歌に比べると質が劣るけれども、
  もしこれを古今集以後の幾万の歌に比べるならば、
  これはまた徹頭徹尾、
  較(くら)べものにならない。
  それほど万葉集の歌は佳いものである。

「田子の浦ゆ」の歌は、
万葉初期の山部の赤人の歌です。

静岡県富士市の田子の浦は富士山を眺める名所だったそうです。

茂吉はこの歌を「赤人作中の傑作」と褒め、
こうも言っています。
  赤人のものは総じて健康体の如くに、
  清潔なところがあって、
  だらりとした弛緩(しかん)がない。

元日というと、
決まってこの二首を思い出し、
知らず知らず心が清々しくなります。
今でも朗詠できる数少ない万葉歌です。

万葉集二首と蜜柑二つ、
誇らしい元日の記憶です。 

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