読もう読もうと思いながら、
なかなか手が出なかった小説を、
昨夜から読み始めました。
2月の講演で話題にしようと思い立ったからです。
朝井リョウ『正欲』(新潮社)
旬1

  私は気付いていきました。
     (中略)
  世の中に溢(あふ)れている情報はほぼすべて、
  小さな河川が合流を繰り返しながら、
  大きな海を成すように、
  この世界全体がいつの間にか設定している、
  大きなゴールへと収斂(しゅうれん)されていくことに。

  その“大きなゴール”というものを端的に表現すると、
  「明日は死なないこと」です。
  目に入ってくる情報のほとんどは、
  最終的にはそのゴールに辿り着くための足場です。
       (中略)
  私たちはいつしか、
  この街には、
  明日死にたくない人たちのために必要な情報が、
  細かく分裂して散らばっていたのだと気づかされます。
  それはつまり、
  この世界が、
  【誰もが「明日、死にたくない」と感じている】
  という大前提のもとに成り立っていると思われている、
  ということでもあります。

身の回りに溢れている情報を、
そんなふうに考えたことは一度もありませんでしたが、
言われてみれば確かにその通りだなと、
心に染み入るように納得しました。

この世情に晩年を生きることに、
確かなる希望と勇気が持てました。