久しぶりに竹西寛子を読みました。
『蘭~竹西寛子自選短編集~』(集英社文庫)

旬1

  満足感は疾(と)うに消え去っていた。
  ただ悲しいというのでもなく、
  ただ恐ろしいというのでもなかった。
  少女は、
  神馬(じんめ)と一緒に居た
  これまでのどの時よりも
  不仕合せになっている自分に気づいた。
  けれどもそれが、
  唯(ただ)ひとときの不仕合せなどと言えるものではなくて、
  人の生きのびる限りつづく気重さであり、
  後ろめたさであろうと気づくのは、
  まだずっと後のことであった。
            (「神馬」より)

     【神馬】神の乗る神聖な馬として、
         また祈願祈祷のため神社に奉納する馬。
         他の馬とは別に神馬舎で飼育される。
         「しんめ」ともよみ、
         神駒(かみのこま)ともいう。
         いわゆる絵馬は、
         神馬の形を額に描いて奉納する略儀からの風習。
                    (巻末の「語注」より)

そいうことって、
誰にだってあることなのだろうなと思いました。

生きのびる限りつづく気重さ、
生きのびる限りつづく後ろめたさ。

思春期の入口で感じてしまって、
晩年の入口で気づかされるもの。