【竹西寛子】2022・2・2
2022年02月02日
久しぶりに竹西寛子を読みました。
『蘭~竹西寛子自選短編集~』(集英社文庫)
満足感は疾(と)うに消え去っていた。
ただ悲しいというのでもなく、
ただ恐ろしいというのでもなかった。
少女は、
神馬(じんめ)と一緒に居た
これまでのどの時よりも
不仕合せになっている自分に気づいた。
けれどもそれが、
唯(ただ)ひとときの不仕合せなどと言えるものではなくて、
人の生きのびる限りつづく気重さであり、
後ろめたさであろうと気づくのは、
まだずっと後のことであった。
(「神馬」より)
【神馬】神の乗る神聖な馬として、
また祈願祈祷のため神社に奉納する馬。
他の馬とは別に神馬舎で飼育される。
「しんめ」ともよみ、
神駒(かみのこま)ともいう。
いわゆる絵馬は、
神馬の形を額に描いて奉納する略儀からの風習。
(巻末の「語注」より)
そいうことって、
誰にだってあることなのだろうなと思いました。
生きのびる限りつづく気重さ、
生きのびる限りつづく後ろめたさ。
思春期の入口で感じてしまって、
晩年の入口で気づかされるもの。