桜木紫乃『俺と師匠とブルーボートとストリッパー』(角川書店)
終りの方にこんな場面があります。
手の震えが止まらぬ老人は、
スプーンですくったチキンライスのほとんどを、
皿に落としながら食べる。
時間をかけてでも食べようとするうちは、
職員は積極的に働きかけはしないようだ。
章介はしばらく、
震えるスプーンで人間のプライドをすくい続ける老人を撮っていた。

私も、
震える手で人間のプライドをすくい続ける老人でありたい。
覚束ない足で人間のプライドを運び続ける老人でありたい。
見えづらい目で人間のプライドを見続ける老人でありたい。
聞こえにくい耳で人間のプライドを聴き続ける老人でありたい。
ままならぬ体で人間のプライドを生き続ける老人でありたい。