【左川ちか】2022・6・16
2022年06月16日
昨日、
『左川ちか全集』(書肆侃侃房)を届けていただきました。
詩、翻訳誌、散文、日記、書簡、翻訳文・・・
左川ちかの全てが収録されています。
編者の島田 龍さんの、
並々ならぬ情熱と労力を感じます。
まだ「詩編」を少し読んだだけですが、
非凡な才能の持ち主です。
左川ちかという人、
夭折の天才と思います。
朝、私は窓から逃走する幾人もの友等を見る。
緑色の虫の誘惑。
果樹園では靴下をぬがされた女が殺される。
朝は果樹園のうしろからシルクハットをかぶつてついて来る。
緑色に印刷した新聞紙をかかえて。(後略)
(「朝のパン」より)19歳
母は歌ふやうに話した
その昔話はいまでも私たちの胸のうへの氷を溶かす
小さな音をたてて燃えてゐる冬の下方で海は膨れあがり
黄金の夢を打ちまらし
夥しい独りごとを沈める
落葉に似た零落と虚偽がまもなく道を塞ぐことだらう
昨日はもうない 人はただ疲れてゐる
貶められ 歪められた風が遠くで雪をかはかす
そのやうに此処では
裏切られた言葉のみがはてしなく安逸をむさぼり
最後の見知らぬ時刻を待ってゐる
(「言葉」)23歳
「みんな仲良くしてね」「ありがとう」と言い残し、
25歳で病気のため逝去。