昨日、
『左川ちか全集』(書肆侃侃房)を届けていただきました。

 

詩、翻訳誌、散文、日記、書簡、翻訳文・・・
左川ちかの全てが収録されています。

編者の島田 龍さんの、
並々ならぬ情熱と労力を感じます。

まだ「詩編」を少し読んだだけですが、
非凡な才能の持ち主です。

左川ちかという人、
夭折の天才と思います。

  朝、私は窓から逃走する幾人もの友等を見る。

  緑色の虫の誘惑。
  果樹園では靴下をぬがされた女が殺される。
  朝は果樹園のうしろからシルクハットをかぶつてついて来る。
  緑色に印刷した新聞紙をかかえて。(後略)
              (「朝のパン」より)19歳 
 

  母は歌ふやうに話した
  その昔話はいまでも私たちの胸のうへの氷を溶かす
  小さな音をたてて燃えてゐる冬の下方で海は膨れあがり 
  黄金の夢を打ちまらし
  夥しい独りごとを沈める
  落葉に似た零落と虚偽がまもなく道を塞ぐことだらう
  昨日はもうない 人はただ疲れてゐる
  貶められ 歪められた風が遠くで雪をかはかす
  そのやうに此処では
  裏切られた言葉のみがはてしなく安逸をむさぼり
  最後の見知らぬ時刻を待ってゐる
               (「言葉」)23歳

「みんな仲良くしてね」「ありがとう」と言い残し、
25歳で病気のため逝去。