【台所】2022・11・19
2022年11月19日
「図書」(岩波書店)11月号に、
東山彰良さんが、
ルーツを求めて中国大陸に渡った人の話を書いています。
せっかく故郷へ帰ってきたんだからと言って、
馬大爺は、
ひとつしかないベッドは私が使うべきだと主張した。
もちろん辞退したが、
やはり聞き届けてもらえなかった。
やっと家に帰ってきたんだから、
というのが馬大爺の言い分だった。
父はソファで寝ることに文句を言わなかった。
夜中にふと目が覚めると、
馬大爺と奥さんが、
台所の土間にふとんを敷いて寝ていた。
家の外は零下の世界だった。
そういえば、
余華の、
『文城 夢幻の町』(飯塚容訳、中央公論社)にも、
同じようなシーンがある。
乳飲み子を抱えた男が、
子供を産んだばかりの女性に、
お乳をわけてもらおうと家々を訪ね歩く。
ある家で、
彼は親切な夫婦と出会う。
夫婦は彼を家に泊めるのだが、
たったひとつしかないベッドを客人に譲り、
自分たちは土間で寝るのだ。
彼らの生涯にわたる友情は、
ここからはじまる。
(「魂に突き刺さった話」)
二つの「土間」の話に、
深く感動しました。
心ではなく魂が揺さぶられました。