「図書」(岩波書店)11月号に、
東山彰良さんが、
ルーツを求めて中国大陸に渡った人の話を書いています。

  せっかく故郷へ帰ってきたんだからと言って、
  馬大爺は、
  ひとつしかないベッドは私が使うべきだと主張した。
  もちろん辞退したが、
  やはり聞き届けてもらえなかった。
  やっと家に帰ってきたんだから、
  というのが馬大爺の言い分だった。
  父はソファで寝ることに文句を言わなかった。
  夜中にふと目が覚めると、
  馬大爺と奥さんが、
  台所の土間にふとんを敷いて寝ていた。
  家の外は零下の世界だった。

  そういえば、
  余華の、
  『文城 夢幻の町』(飯塚容訳、中央公論社)にも、
  同じようなシーンがある。
  乳飲み子を抱えた男が、
  子供を産んだばかりの女性に、
  お乳をわけてもらおうと家々を訪ね歩く。
  ある家で、
  彼は親切な夫婦と出会う。
  夫婦は彼を家に泊めるのだが、
  たったひとつしかないベッドを客人に譲り、
  自分たちは土間で寝るのだ。
  彼らの生涯にわたる友情は、
  ここからはじまる。
        (「魂に突き刺さった話」)

二つの「土間」の話に、
深く感動しました。

心ではなく魂が揺さぶられました。