【墨のゆらめき】2023・8・24
2023年08月24日
昨日の一日一冊は、
三浦しをん『墨のゆらめき』(新潮社)
俺は遠田の顔を正面から見た。
「遠田さん、私たちは友だち・・・」
と意気込んで言いかけたのだが、
ちょっと考え、
「ではないですよね」
と尻つぼみになった。
「ないな」
遠田もうなずく。
「ですがまあ、『おまえが去った春の山で俺はいったいだれと遊べばいいのか」なのはたしかです」
「そうか? チカおまえ、友だち少ねえんだな」
以前、「遠田」が書いた唐詩のことを引用したのです。
君去春山誰共遊
鳥啼花落水空流
如今送別臨渓水
他日相思来水頭
(劉商「送王永」)
その意味を「俺」が尋ねたら、
「遠田」が答えます。
おまえがいなくなった春の山で、
俺はだれと遊べばいいんだ。
鳥は啼き、花は散り、川はむなしく流れるばかり、
いま、谷川のほとりでおまえの旅立ちを見送っている。
会いたい思いが募ったときいは、
またこの川辺に来よう。
「友だち」ではないが、
「(別れたあと)いったいだれと遊べばいいのか」と思う間柄、
いいじゃないですか。