よぶこえの引き出し

【よぶこえ】第2317号「いい詩だなあ」 2018・8・16(木)

2018年08月16日

今朝の朝顔は、
今朝の雨で濡れていました。

 【よぶこえ】第2317号「いい詩だなあ」 2018・8・16(木)



本棚に並んだ背表紙から、
この本を抜き出して、
朝顔って、
どんなふうに書かれているんだろうと思い、
ページをめくりました。 


白井明大『季節を知らせる花』(山川出版社)

 【よぶこえ】第2317号「いい詩だなあ」 2018・8・16(木)


竹内敏喜の「スクリプト」という詩が載っています。

    アサガオの種を
    いつもいつも蒔(ま)こうとおもっていて
    夏の終りにようやく一粒を土においたという妻が
    さっきまでこの部屋にねむっていた

    鉢が小さかったから残った種は
    アパートのまえの草地にばらまいたという

    母親になったきみは平和を求めたにもかかわらず
    与えられるのはひとつの権利だった
    精神のやすらぎを欲したのに
    みしらぬ義務を抱えこまされるばかりだ

    出かけて後にひろがる子どもの声のぬくもり
    そのふるえやゆらぎを失くさないようにと
    おのれの声をみつめながら夜勤へと歩く

  アパートの一室で、
  ベランダに蒔かれた種は、
  いつしか芽を出し、
  蔓を伸ばし、
  早朝に花を咲かせるでしょう。
  その花を見上げながら、
  夜勤明けの女性が、
  我が家へと帰っていく姿が想像されます。



夜勤に出た後に残された子どもが、
発する声のぬくもり、
そのふるえやゆらぎ、
自分では触れることができないがゆえに、
心にとどめようと、
出かける前に、
子どもの寝顔に語りかけた、
自分の声を見つめながら、
夜道を職場へと向かう姿が想像されます。

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