よぶこえの引き出し

【彼と彼女】2019・6・20

2019年06月20日

《彼と彼女》
病院で彼女に会いました。

約束していた時間より前に来て、
約束した場所で彼女が待っていました。

車椅子にちょこんと坐っていました。

彼女を彼に引き合わせて、
病院の玄関で別れました。

何やら話しながら、
彼と彼女が遠ざかるのを、
ぽつんと立って見送りました。

やがて、
角を曲がって、
姿が見えなくなるまで見送りました。

その間、
彼と彼女は一度も振り返りませんでした。




《彼女》
その1時間後、
道端で、
また会いました。

今度は、
彼女一人でした。

「あのカフェに行ってみた?」
「今日は閉まっていました」

そんな話をしているのを、
近所の人に見られていました。

後で、
「一人で車椅子、大丈夫ですか?」
と尋ねられました。

大丈夫です。
彼女なら大丈夫です。

15歳のときから、
彼女のこと、
ずっと見て来ました。

「また会おうね。今度はゆっくり」
「ぜひぜひ」

彼女が遠ざかるのを、
ずっと見送りました。

まっすぐな道を、
車椅子を上手に操って、
どんどんどんどん遠ざかって行きました。

その間、
彼女は一度も振り返りませんでした。

やがて、
帆船のマストが、
水平線に隠れるように、
彼女が視界から消えました。

ただ、
それだけのことです。
が、
彼と彼女も、
彼女も、
その後ろ姿は、
とってもいい光景でした。

でも、
ただそれだけのことです。

それだけのことを、
一日経って、
書いてみたくなりました。


それほどに、
いい絵でした。




《おまけ》
昨日みたものたち。




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