よぶこえの引き出し

【昨夜の雨が】2019・9・16

2019年09月16日

《昨夜の雨が》
ゴミ出しに行ったら、
道路が濡れていました。
大きな水たまりも・・・。

昨夜、
雨が降ったようです。
しかも、
かなり強く。

全く知らずの寝ていました。

その雨が、
昨夜の雨が、
この空を引っ張ってきました。
今朝の空を持ってきました。

 【昨夜の雨が】2019・9・16  【昨夜の雨が】2019・9・16




《第一連》
雨が降る前の昨夜、
古本で買った詩集を読みました。

「著者略歴」をみると、
私より二歳上の方です。

どこかの学校の養護教諭だったそうです。

黒羽由紀子『夕日を濯ぐ』(国文社)

 【昨夜の雨が】2019・9・16



学校現場で、
悩める生徒と関わる中で生まれた詩、
・・・といっていいと思います。

あるいは、
病める生徒たちと言った方がいいのかもしれません。

それぞれに、
行きづらい生徒の内面に、
鋭く迫った詩です。

とりわけ、
第一連が秀逸でした。

いくつかの詩の、
第一連のみを引用します。

  拒食症になってから
  きまって みる夢は
  産卵を終えないまま
  息たえる寸前の 一匹のさび鮎
  その姿
        (「さび鮎」より)


  教室に
  はいれなくなった帰り道
  一匹の蝶を みつけました
  趐がちぎれ もがくこともできない
  しぼんだ息の 蝶
        (「蝶」より)


  動物園の 洗い熊
  あの えさを洗うしぐさが
  異常潔癖症の
  わたしそっくりだと言われ
  えっと 声をつぶし
       (「洗い熊」より)


  ゆらゆら いつまでも漂っていれば
  学校にゆきなさい なさい
  なさいという声が
  この耳の底から うしろから
  消えてくれるかしら
       (「海ほおずき」より)


  学校にゆけなくなってから
  おまえは
  日ごとにやせ 窓辺に立って
  すがれてゆく野の風景を
  みつめている
       (「晩秋」より)


  わたしのどこからか もう
  学校にゆけないわという ことばが
  漏れた とき
  お母さん あなたは
  夕映がしみた瞼を 伏せ
       (「雪の風景」より)


  学校にゆく朝がこわい
  こうして目覚めないでと祈ったわ
  そしたら まぶたの奥で
  暗さに暗さが重なって壺になったの
  忽ち庭のブドウも影を落として
       (「壺」より)

  おまえなんか
  死ね! と書かれた
  差出し人不明の手紙が
  カバンに 入っていたせいでしょうか
       (「蝋燭」より)


次の詩だけは、
全てを載せます。

  母の愛・欠乏症といわれたので
  薬にと
  母の顔の クッキー焼く
  べたべた こねて
  フリルの唇をつけて

  オーブンに並べると
  みんな
  陽だまり色に 膨らんでいき
  見つめる わたしに
  香ばしく微笑みかけて

  ティータイム
  母を一枚
  細かく割って
  おそるおそる 口にふくむ
  錠剤を飲むように

  すると
  凍っていた 体の中の塊が
  牧場の甘さで
  溶けたのでしょうか
  きゅうに 力が抜け・・・

  その時 どこからか
  母牛の声  
  思わず耳を傾けた とたん
  中秋の光の 指に
  わたしは つつまれて
       (「クッキーの母」) 

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