【背中】2020・2・3
2020年02月04日
《背中》
週末に読んだ3冊のうち、
もう一冊だけ引用します。
あさのあつこ『待ってる~橘屋草子~』(講談社)
「仕方ないさ」
束の間黙り込んだ後、
お多代が言った。
他人(ひと)さまに背中がついているんだ。
ついている以上、
背中を向けることも、
背中を見送らなくちゃいけないこともあるだろうよ。
「しかたがねえよ」
後ろで幸吉が呟いた。
あの子の言うとおりだ。
おしのは、おしのだ。
おつるじゃねぇ。
おつるの代わりをあの子にさせちゃならなかったんだよ。
背中が遠ざかる。
肩揚げも取れない小さな背中がまた、
行ってしまう。
肩を抱きかかえられた。
「中に入ろう、なっ」
行ってしまった。
もう帰ってこない。
仕方ないんだよ。
お多代の声が耳の奥で鳴っている。
そのとおりだあって思います。
人はみんな背中を持っています。
恋しくて背中を探したり、
ある日、突然、背中を向けられたり、
もう会えあないなあと思いながら背中を見送ったり、
だいじょうぶだよと背中をとんとんしたり・・・。
《節分の宍道湖》